『駆ける少年』
Davandeh
4月26日(金)まで
浜松シネマイーラで鑑賞
走る少年たちの映画その1
予告はこちら↓
監督:アミール・ナデリ
出演:マジッド・ニルマンド
ムーサ・トルキザデエ
アッバス・ナゼリ
西島秀俊主演の『CUT』や『サウンド・バリア』
などを手がけるイランのアミール・ナデリ監督が、
1986年に発表し、三大陸映画祭グランプリを獲得した作品。
舞台は70年代初頭のイラン。ペルシャ湾沿岸の小さな港町。
少年アミルは浜辺に打ち捨てられた廃船にたった一人で暮らしている。
ゴミ捨て場から空きビンを拾ったり、
外国船の船員が海に捨てたビンを拾い集めたり、
水兵の靴磨きや水売りなどをして何とか生計を立てている。
親もなく苛酷な環境にありながらも、
アミルはまるでハックルベリィ・フィンのように一人の生活を楽しんでいる。
彼には好きなものがたくさんあるからだ。
大きな白い船、どこか遠くに連れて行ってくれる飛行機、
外国の綺麗な写真、チャップリン、友だち…そして走ること。
アミルの仲間たちも皆、同じように天涯孤独の身の上だ。
彼らはありあまるエネルギーを試すように全身で走る。
誰も暗い顔はしていない。
あるとき、競走に負けてもなお走り続けるアミルに友だちはいぶかる。
アミルは「自分の力を確かめたかったんだ」と答えるのだった。
ある日、アミルは自分が学校行っていていい年齢なのに、
読み書きができないことに気づき愕然とする。
文字を知ることは世界を知ること。
アミルは取り憑かれたように字を覚え始める。
そしてついに来た「火の競走」の日。
少年たちは天然ガスの炎が轟々と逆巻くなかに置かれた氷の塊を求めて
熾烈な競走をくりひろげる。
本作のアミル少年には、ナデリ監督本人の体験が色濃く反映されている。
ナデリが生まれる前に父が他界、6歳の時に母を失う。
兄とともに叔母夫婦に引き取られ、
正式な教育は12歳までしか受けていない。
このころナデリ少年を支えたものこそが「映画」であり、
このころから「映画を作る」と決めていたらしい。
そして12歳で単身テヘランへ旅立ち、
映画への強い憧れを胸に大都会に出てきたナデリは、
ひたすら目標に向かってつき進む。
映画製作会社のティーボーイから始め、
制作部の雑用係、そしてスチールカメラマンを経て、
1970年「グッバイ、マイフレンド」でいきなり監督デビューし、
一躍脚光を浴びる。
その後、本作品でイスラム革命後初めてイラン映画が映画祭で受賞。
アメリカで映画を撮るという夢を『マンハッタン・バイ・ナンバーズ』で実現する。
そして、常から日本映画への愛を公言していたナデリは2011公開の『CUT』で、
ついに日本での撮影を敢行、念願を果たした。
そんなナデリのまっすぐで諦めない姿はそのまま、アミルに重なる。
アミール・ナデリ監督プロフィール
1946年8月15日イラン・アバダン出身。
テヘランでスチルカメラマンとして映画制作に携わった後、
71年に映画監督デビューを果たす。
以降、自ら執筆したオリジナル脚本作品の監督を続け、
「駆ける少年」(85)と「水、風、砂」(89)で、
ナント三大陸映画祭のグランプリを受賞。
アッバス・キアロスタミやモフセン・マフマルバフらとともに、
イランを代表する映画監督として知られるようになる。
その後、米国に移住してニューヨークに拠点を置き、
「マンハッタン・バイ・ナンバーズ」(93)、「サウンド・バリア」(05)、
「ベガス」(08)などを発表する。
日本映画に造詣が深く、
05年の東京フィルメックスで西島秀俊と出会ったのをきっかけに「CUT」(11)を制作し、日本映画を監督するという長年の夢を実現した。
(『駆ける少年』公式HPより)
『駆ける少年』はアメブロブロガーさん
東映映画と殺人事件を追いかけるブログさんの激押し作品で、
ブロガーさんの間で話題になった作品です。
私も早速シネマイーラの館主榎本さんにリクエストしたところ、
榎本さんのお知り合いが配給してみえるとのことで、
シネマイーラでの上映が決まり、
とても楽しみに待っていた作品です
そして、13日イーラでの封切日に観てきました
この作品はナデリ監督一番のお気に入り作品だそうです。
さらに、今でもイランの映画学校では必ず教材として学生が学ぶべき
定番の映画になっているそうです。
多くのイラン映画人に影響を与えています。
アボルファズル・ジャリリ監督、マジッド・マジディ監督、
私が好きなバフマン・ゴバディ監督は、
「イラン映画のトップ3は? と聞かれたら、
その1本に『駆ける少年』を挙げるでしょう。
私は『駆ける少年』のアミルと共に走り、苦しみ、叫びました。
アミルは私の手本になりました。苦労を超えるための手本。
アミルに勇気をもらい、映画の世界に入りました。」と語っています。
(『駆ける少年』公式HPより)
この作品は、イラン・イラク戦争下で撮影されました。
ある日撮影して、次の日に行くと、もうそこが爆撃されてなくなっている、
ということが日常だったので、
イラン中を移動しながら3ヶ月かけて撮影したそうです。
爆撃に巻き込まれ主演のマジッド少年が、
ショックで24時間口がきけなくなったこともあったそうですΣ(゚д゚;)
パンフレットにある、柳下毅一郎さんの、
ナデリ監督へのインタビューがとても面白くて笑ってしまいました。
夏休み中に撮影は2週間という予定だと子どもたちを集め、
結局3ヶ月連れまわして撮影してしまったので、
誘拐のようになり、親たちが激怒してしまったけど、
始めから2週間で終えるつもりはなくだますつもりでした。
なんて言っています( ´艸`)
主演のマジッド少年は、
撮影が終わった頃には髭が生えるようになっていて、
毎日髭を剃らなければならなくなったそう。
監督は「わたしは子どもを男にして帰してあげたんですよ!」
と語っています。面白い方ですね
イラン時代にはアッバス・キアロスタミ監督とも仲が良かったそうです。
この柳下氏のインタビューほど面白くはないですが(←ヒドイ)
この映画や『CUT』のこともナデリ監督が語っているインタビューが、
こちらの読売新聞のyorimoというサイトで読めますので、どうぞ。
ここ←をクリックです。
最後の「火の競争」の場面↓
ナデリ監督は600ミリの超望遠レンズを使っているので、
望遠で安全に撮っているのだろうと思ったら、
迫力を出すために勝手にガス田に火をつけて撮影したというから、
スゴイ迫力なわけです。過激ですな~驚きです(ノ゚ο゚)ノ
昨今は、セリフや演出過剰な映像で説明しすぎる映画が溢れています。
そんな状況の中で、
この『駆ける少年』、
説明しすぎない映像の圧倒的な力を見せてくれます
カットごとの構図が本当に美しく素晴らしいです
子どもにはちゃんと演出をしています。
芝居の演出というより、アクションですね。
セリフは少ないですが、セリフすらアクションのひとつな感じ。
力強くて生き生きとした、さらに生命力があふれた自然な身体表現です。
パンフにナデリ監督が子どもの前で動きの見本を
やって見せている写真がありますが、力強いですな~。
監督、『CUT』の西島秀俊みたいなことを、
革命後のイランでやっていたという、
若い頃から筋金入りの武闘派ですから(笑)
生き生きとはじける少年たちの脇で、
全身黒ずくめで黙々と仕事をしている女性たち。
年齢すら分かりません。
イラン革命が女性たちに課したことの残酷さも読み取れました。
走る、走る、少年たちの、生命力に溢れた作品です。
学ぶことを自ら望んだアミル少年の目の輝きに、
未来が託されます。
アミール・ナデリ監督はアミル少年が夢見たように、
アメリカへ渡りました。
しかし、彼がイランで撒いた映画の種は、
その後も多くの映画人に影響を与え続けています。
私が大好きなバフマン・ゴバディ監督の『ペルシャ猫を誰も知らない』
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ネガル・シャガギ,アシュカン・クーシャンネジャード,ハメッド・ベーダード
この作品はここ3年くらいに観た数百本の作品の中でも、
マイベストと言える作品です。
モフセン・マフマルバフ監督の娘、ハナ・マフマルバフ監督の
『子どもの情景』では、アフガニスタンの6歳の少女が、
必死で学校に入って学ぼうとします。
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ニクバクト・ノルーズ,アッバス・アリジョメ
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モフセン監督の娘でハナの姉、
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爆撃で学校を失った教師たちが、
子供に読み書きを教えるために教師のいない村を回っていきます。
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モフセン・マフマルバフ監督の娘たちは
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恵まれた環境に育ったとはいえ、すごい才能です。
ラクシャン・バニエテマド監督など女性監督も活躍しています。
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反体制的なプロパガンダ活動を行ったと、
2009年に逮捕され、懲役6年と映画製作20年間禁止を言い渡され、
『これは映画ではない』を撮りました。
オフサイド・ガールズ [DVD]/
シマ・モバラク・シャヒ,サファル・サマンダール,シャイヤステ・イラニ
イランでは、まだまだ自由な表現活動はできません。
しかし、驚くほど豊饒な文化、芸術の土壌があります。
映画も素晴らしい作品がたくさんあります。
音楽シーンもすごくジャンルも豊富でレベルが高いです。
『ペルシャ猫を誰も知らない』を観るとよく分かります。
イラン映画も大好きで、たくさん観てきましたので、
またいつか記事も書きたいなあと思います。
『駆ける少年』も、
命の力がほとばしる本当に素晴らしい作品でした
ぜひ、ご覧くださいネ
CUT [DVD]/
西島秀俊,常盤貴子,菅田俊
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