『天使の分け前』
The Angels' Share
浜松シネマイーラで鑑賞
イギリス・フランス・ベルギー・イタリア合作映画 2012年製作
予告はこちら↓
監督:ケン・ローチ
脚本:ポール・ラヴァティ
出演:ポール・ブラニガン ロビー
ジョン・ヘンショウ ハリー
ゲイリー・メイトランド アルバート
ウィリアム・ルアン ライノ
ジャスミン・リギンズ モー
ロジャー・アラム タデウス
シヴォーン・ライリー レオニー
チャーリー・マクリーン ロリー・マカリスター
イギリスの名匠ケン・ローチが、
2012年のカンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞したドラマ。
スコットランドを舞台に、恋人や家族からも見放されていた青年が、
信じられる仲間を得たことで前向きになっていく姿を、
笑いや涙を交えて描く。
ケンカの絶えない人生を送るロビーは、
恋人レオニーや生まれてくる赤ちゃんのために人生を立て直そうとするが、
なかなかまともな職に就けず、またもトラブルを起こしてしまう。
服役の代わりに社会奉仕活動を命じられ、
そこで3人の仲間と出会ったロビーは、
奉仕活動指導者でウイスキー愛好家のハリーから
スコッチウイスキーの奥深さを教わり、テイスティングの才能が開花。
仲間とともに1樽100万ポンド以上する
高級ウイスキーに人生の大逆転をかける。
脚本はローチ作品おなじみのポール・ラヴァティ。
(映画.comより)
本作はケン・ローチ(1936年生まれ)の最大のヒット作で、
ウディ・アレン(1935年生まれ)が『ミッドナイト・イン・パリ』で、
人生最大のヒット作を出したことと並べて、
パンフにも書かれていました。
ロマン・ポランスキー79歳、アッバス・キアロスタミ73歳、
リドリー・スコット75歳、クリント・イーストウッド83歳、
マーティン・スコセッシ70歳、ロバート・レッドフォード76歳
デヴィッド・クローネンバーグ70歳、
思いつくまま挙げてみましたが、
精力的に作品を発表し続けている
ベテラン監督たちが、70歳を越えています。
みんな好々爺のイメージじゃないですね。
『天使の分け前』はケン・ローチの作品の中では珍しい、
ハッピー・エンドなコメディーです。
他にコメディーは『エリックを探して』『明日へのチケット』くらい。
2011年にイギリスで失業中の若年層が100万人を越えたのをうけ、
彼らにも出会うべき適切な指導者と、
やり直せるチャンスが必要だということを
ユーモアたっぷりなコメディーとして描き、
希望を見せてくれます。
前作『ルート・アイリッシュ』で、
イラク戦争での傭兵の悲劇的な運命を描いていたのとは
逆のタッチです。
もちろん「社会派」のケン・ローチですから、
若者たちの置かれた厳しい現実も描かれます。
『カルラの歌』以来ケン・ローチとコンビを組む
脚本家のポール・ラヴァティが綿密なリサーチをしていくうちに、
100万ポンド以上の国際取引がされているスコッチウィスキーを
飲んだことがないスコットランド人の若者が多く、
また、社会奉仕命令を受けた若者たちの多くが、
ウィスキーの作られている風光明媚な所に
一度も行ったことがないと知ります。
手に届くところにあるのに届かない事を、
映画の中では若者たちに巡ってくるチャンスとして与え、
若者の可能性を信じて欲しいという
メッセージになっているのが素敵です。
ポール・ラヴァティがリサーチする中で出会った青年、
ポール・ブラニガンが主人公のロビーを演じています。
ケン・ローチは演技経験のない人を起用して、
その人の経験、存在感からリアルな芝居を引き出すのが得意です。
今回も大成功しています。
ポール・ブラニガンは、
この作品の後既に3本の映画に出演しています。
『リフ・ラフ』のロバート・カーライルのような、
素晴らしい俳優になって欲しいです。
『天使の分け前』よりさらに若い世代の厳しい現実を描いた
『SWEET SIXTEEN』で主人公リアムを演じた
マーティン・コムストンは(『アリス・クリードの失踪』)
俳優になりました。
今回ライノ役ウィリアム・ルアンは『SWEET SIXTEEN』では、
リアムの親友役でした。(その後彼は俳優・DJになりました。
ローチの『麦の穂をゆらす風』にも出演しています。)
アルバート役ガリー・メイトランドも出演していました。
『明日へのチケット』でのケン・ローチのパートの若者3人は、
マーティン・コムストン、ウィリアム・ルアン、ガリー・メイトランドでした。
ガリー・メイトランド、ウィリアム・ルアン、マーティン・コムストン
明日へのチケット [DVD]/
カルロ・デッレ・ピアーネ,ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ,
シルヴァーナ・デ・サンティス
エルマンノ・オルミ 、 アッバス・キアロスタミ 、 ケン・ローチ
3人の共同監督作品です。(それぞれのパートが繋がっている)
ガリー・メイトランドは今の本職は清掃局の職員で、
今回3本目の映画出演のために7週間の無給休暇を取って参加したそう。
ちょっと足りない感じなのに、突然クレバーなことを言う、
愉快なアルバートを好演していました。
ずっと演技していなかったとは思えないなりきりぶりでした。
ウィリアム・ルアンは監督の意図をすぐにつかんで、
他の共演者からの即興性を引き出す役目もしていて、
とても信頼しているとケン・ローチも語っています。
仲間の紅一点、モー役のジャスミン・リギンズもリアル。
若者たちを導くハリー役のジョン・ヘンショウは実にイイ感じ。
本物のウィスキーのエキスパートであるチャーリー・マクリーンが、
取材の協力をするうち、自分自身のようなロリー役を
することになりましたが、実に堂々と演じています。
主人公ロビーのパートナー、レオ二ー役のシヴォーン・ライリーは、
女優の経験はありましたが、教師をしていました。
彼女が劇中産むルークは彼女の甥っ子なのです。↓
ケン・ローチは役者に完成した全編の脚本は渡しません。
その日の朝にその日の分が渡されます。
大概1台のフィルム・カメラを役者から離れた所に置いてそばにいるそう。
言葉でいちいち役者に指示をしないとのこと。
それが彼のやり方で、このライブ感が出せるのですねェ。
同じく新人や本業が俳優ではない人の演出が上手く、
キャスティングを決めた時点で自分の仕事は終わっている、
と言っていた、(最近私がハマって観ている)
木下惠介監督と同様な庶民をリアルに描く手腕を感じます。
私は20年以上ケン・ローチの映画を観て来ました。
この作品を観て、ああ、ケン・ローチ映画観て来て良かったなァ。
と感じました。
監督からのプレゼントのように思えました。
ケン・ローチ・ファンの人はきっとそう感じたのではと思います。
この作品を初めてご覧になって、
これからケン・ローチの過去作品観ようと思われる方は、
シヴィアで重い作品も多いので、
ハート・ウォーミングだけを期待せず、
ぜひ色々な作品を観て戴きたいです。
私が好きな作品たくさんありますが、
おススメ作品を絞ると、
リフラフ [DVD]/
ロバート・カーライル エマー・マッコート リッキー・トムリンソン
レイニング・ストーンズ [DVD]/
ブルース・ジョーンズ ジュリー・ブラウン ジェマ・フェニックス
麦の穂をゆらす風 プレミアム・エディション [DVD]/
キリアン・マーフィー,ポードリック・ディレーニー,リーアム・カニンガム
SWEET SIXTEEN [DVD]/マーティン・コムストン,ウィリアム・ルアン,ゲイリー・マコーマック
マイ・ネーム・イズ・ジョー [DVD]/
ピーター・ミュラン,ルイーズ・グッドール,ゲイリー・ルイス
ルート・アイリッシュ [DVD]/
マーク・ウォーマック,アンドレア・ロウ,ジョン・ビショップ
ナビゲーター ある鉄道員の物語 [DVD]/
ジョー・ダッティン,トム・クレイグ,ヴェン・トレーシー
重いのはどうも...という方には
エリックを探して [DVD]/
スティーヴ・エヴェッツ,エリック・カントナ
ユナイテッド(マンU)の大ファンであるケン・ローチが、
ユナイテッドのキングだったカントナ(元フランス代表)と組んだ、
とても面白く、楽しいコメディーです。
え~!?全然絞られてないですか?
これでも絞ったし、『ケス』がない!
『自由と大地』『ブレッド&ローズ』がない!
とクレーム来そうですが...
2012年カンヌ国際映画祭で↓
昨年コンペティション部門の審査員だったユアン・マクレガーと
ユアンも『トレインスポッティング』でスコットランドの失業者の若者を演じました。
主演のポール・ブラニガンには実際にこんなに可愛い奥さんと息子がいます。
ケン・ローチ監督は既に2014年公開予定の
『ジミーズ・ホール Jimmy's Hall (原題)』
の撮影に入っています。精力的ですね。
(アイルランド人の共産主義の活動家ジミー・グラルトンが描かれ、
『麦の穂をゆらす風』アイルランド独立戦争とアイルランド内戦の
10年後1930年代が舞台)
ここからは恒例の!?関連余談f^_^;
スコットランドは南部のアップランド、中部のローランド、
北部のハイランドに別れています。
ロビーたちもはいたキルトは
ハイランドの伝統衣装がスコットランド中に広まったもの。
ウィスキーのオークション会場としてロケされた、
バルブレア蒸留所はハイランド北部にあります。
さあ、やっと題につけた「アズテック・カメラ」です(笑)
アズテック・カメラ(Aztec Camera)は、
ロディ・フレイムがリーダーのスコットランドのロック・バンド。
1983年にアルバム
「High Land、Hard Rain (ハイ・ランド、ハード・レイン)」
で、デビューしました。
この年ロディ・フレイム19歳、私は18歳の高校生でした。
このアルバムは聴きまくりました。
初期のラフ・トレードのアーティストのレコード、
アルバムやコンピレーションアルバム
今でも後生大事に持っています(笑)
ときどき聴きます。
「君の部屋の壁からジョー・ストラマーの顔が剥がれ落ちる」
というポスト・パンクの時代を象徴した歌詞が有名な
「ウォーク・アウト・トゥ・ウィンター」
大好きな曲です。今聴いてもグッときます。
↓ロディ・フレイムのルックスも好きでしたσ(^_^;)
↓ルックスは変わりましたが、声は30年経っても変わっていません。
7月にワーナーミュージックの名盤シリーズForeverYOUNGで、
再発売されました。これ名盤ですョ。
ハイ・ランド、ハード・レイン/アズテック・カメラ
ロディ・フレイムは、
デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」を聴いて、
音楽を志したのです。
ちゃんと次の記事、
ボウイ自身の「スペース・オディティ」のイタリア語版
「ロンリー・ボーイ、ロンリー・ガール」が、
印象的に使われた
ベルナルド・ベルトルッチ監督
『孤独な天使たち』の記事に
続くのです
(さんざんだらだら書きました...)
ロディ・フレイムはこんなルックスでしたが、
アイドルじゃありません。
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