『Hunger/ハンガー』
Hunger
2008年製作
イギリス映画
シアター・イメージフォーラムで鑑賞
↓かなりソフィスティケートされて作られている日本版の予告
↓公式トレーラー
監督:スティーヴ・マックイーン
製作:ローラ・ヘイスティングズ=スミス
ロビン・グッチ
製作総指揮:ジャン・ヤングハズバンド
ピーター・カールトン
リンダ・ジェームズ
エドマンド・クルサード
イアン・カニング
脚本:エンダ・ウォルシュ
スティーブ・マックイーン
撮影:ショーン・ボビット
美術:トム・マカラー
編集:ジョー・ウォーカー
音楽:デビッド・ホームズ
レオ・エイブラハムズ
キャスト:
ボビー・サンズ マイケル・ファスベンダー
レイ・ローハン看守長 スチュアート・グラハム
モーラン神父 リアム・カニンガム
ローハンの母 ヘレナ・ベリーン
ローハンの妻 レイン・ミーゴー
「それでも夜は明ける」で
第86回アカデミー作品賞を受賞した
スティーブ・マックイーン監督が、2008年に発表し、
カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)
を受賞した長編デビュー作。
1981年、北アイルランドのメイズ刑務所に、
イギリスのサッチャー政権に弾圧され、
政治犯として権利を奪われたIRA(アイルランド共和軍)の
ボビー・サンズらが収監されていた。
自らの信念を貫くためサンズと仲間たちは抵抗を繰り返すが、
看守たちの暴力によって制圧され、
何も状況は変わらない。
サンズは最後の抗議手段としてハンガー・ストライキの実行を決意する。
(映画.COMより)
ボビー・サンズは、1954年生まれ。
1981年のハンガー・ストライキで死亡。
アイルランド共和軍(IRA)暫定派の活動家。
ブランケット・プロテスト
(投獄されたときに支給される囚人服を着ることを拒むと裸で房に入れられるので、
毛布を肩にかけて過ごした。)
ダーティー・プロテスト
(監獄に垂れ流した糞尿と食物を壁や床になすりつける抗議活動)
1981年のハンガー・ストライキの参加者は
23名で、10名が亡くなった。
以下のサイトを参考にしてください。
北アイルランドの紛争の歴史←クリック
the Northern Ireland Troubles FAQ
北アイルランド紛争について、
FAQ形式で書かれた日本語サイト←クリック
IRA暫定派←クリック
これは、
2014年1月~4月に観た映画のまとめ←クリック
で、
1~4月に観た作品の中で私のベスト1と
紹介しました。
ワン・ビン監督の『無言歌』以来に、
ずしんと打ちのめされた作品でした。
『ハンナ・アーレント』以来、
「悪の凡庸さ」のテーマを追って
見てきた作品が何本かあり、
シリーズで書きたいのですが、
なかなかまとめて書けないので、
とりあえず私としては、
この作品は早めに書いておきたい
気持ちがありまして。
スティーヴ・マックイーン監督は、
『それでも夜は明ける』で、
アカデミー賞作品賞を受賞し、
作品はシネコンでも上映されたので、
一気に知名度が上がりました。
でも、前作『SHAME -シェイム-』を
御覧になっている方も多いはず。
『Hunger/ハンガー』と同じく、
マイケル・ファスベンダー主演。
SHAME -シェイム- スペシャル・エディション [DVD]/
マイケル・ファスベンダー,キャリー・マリガン,ジェームズ・バッジ・デール
![]()
『Hunger/ハンガー』は主人公ボビー・サンズは刑務所に
囚われている。
『SHAME -シェイム-』の主人公ブランドン・サリヴァンは、
生育環境のトラウマからセックス依存症に囚われた男。
『それでも夜は明ける』の主人公ソロモン・ノーサップは、
騙されて奴隷として囚われの身で12年間をすごす。
この囚われ度が一番キツイのが『Hunger/ハンガー』です。
スティーヴ・マックイーン監督は事件当時(81年)11歳で、
テレビでボビー・サンズが痩せ衰えて行く姿の報道を見て、
忘れられなくなったそうです。
この作品はテロリストを美化しているという批判も受けましたが、
マックイーン監督はイラクのアブグレイブ刑務所で、
フセイン時代だけでなくアメリカ軍政時代に起こった
イラク兵捕虜に対する拷問、虐待、
キューバのグァンタナモ米軍基地収容キャンプにおける、
収容者への虐待など、
現代にも起きている事実への抗議の意味も込めていて、
「とりすました世界で何が起こっているかを知ってほしいだけで、
サンズの行為を良いとも悪いとも言っていない」と反論。
確かに『Hunger/ハンガー』では、
ボビー・サンズらのプロテスト行為は客観的に描かれています。
虐待の実態の描写には容赦はありません。
セリフは極力排除され、
判断は観る者の思考力、理解力に委ねられます。
機動隊の青年が虐待を見ていられずに
隠れて涙する姿が描かれていたり、
サンズの活動家としてのシビアな面も読み取れます。
両親が彼の意志を尊重し、
最後まで冷静に毅然とした態度を取ることも、
政治状況へのプロテストであることが分かります。
ボビー・サンズの薄れゆく意識の中に現れる、
少年時代の彼は、
自然の風景の中で走り続ける。
そして度々彼の枕元に現れます。
少年時代の自分が天使のような役目を果たします。
マックイーン監督は大学で美術やデザインの勉強をした後、
ビデオ・インスタレーションアーティスト、
彫刻家、写真家として活動しました。
ビデオ・インスタレーションとは、
現代美術における表現手法・ジャンルの一つで、
ビデオによる映像を用いて、観客のいる周囲の環境を変容させ、
観客に影響を与えるというもの。
ビデオを使った芸術であるビデオアートと、
場所や空間全体を作品化して体験させる芸術である
インスタレーションを組み合わせたもの。(ウィキより)
1999年にバスター・キートンの映画に基づく
ビデオ・インスタレーションでターナー賞を受賞。
ターナー賞は、
50歳以下のイギリス人もしくは
イギリス在住の美術家に対して毎年贈られる賞。
19世紀イギリスのロマン主義の画家
J.M.W.ターナーの名にちなむ。(ウィキより)
5月のカンヌ映画祭で
マイク・リー監督の「Mr. Turner」で、
ターナーを演じたティモシー・スポールが男優賞を受賞。
日本でも人気のある画家です。
↓昨年スイスのバーゼルの美術館で行われた、
スティーヴ・マックイーンのビデオ・インスタレーションの
レトロスペクティヴ(回顧展)の模様の動画
↓「Mr. Turner」公式トレーラー
マックイーン監督の映画のルックやアングルは、
アーティスティックに造形されていてとても美しい。
私は画家であるジュリアン・シュナーベル監督の
映画がとても好きですが、
『SHAME -シェイム-』を観た時も、
『それでも夜は明ける』を見た時も、
ジュリアン・シュナーベル監督の作品を連想しました。
特にテーマ的にもこの2作を。
『夜になるまえに』(2000年)
夜になるまえに [DVD]/
ハビエル・バルデム,ジョニー・デップ,ショーン・ペン
![]()
『潜水服は蝶の夢を見る』(2007年)
潜水服は蝶の夢を見る [DVD]/
マチュー・アマルリック
![]()
この2作はハビエル・バルデムとマチュー・アマルリックが、
素晴らしい演技をしています。
この芸達者な先輩名優たちに負けないのが、
マイケル・ファスベンダーの体を張った演技力。
『Hunger/ハンガー』はマックイーン作品だということより、
彼を目当てに観る方も多いでしょう。
かくいう私もマイケル・ファスベンダー
好きですけどf^_^;
ロバート・デ・ニーロ、クリスチャン・ベール、
マシュー・マコノヒーにも全く劣らない、
激やせ肉体改造で臨んだ演技は、
壮絶な迫力で、
彼の演技力の高さが分かります。
激やせの肉体改造だけでなく、
佇まいや目の演技で、サンズの人間性や、
活動家としての冷徹な面、
極限状態での人間としての尊厳を表現しました。
(X-MENではこれは出せません)
そうそう、ハビエル・バルデムも、
アメリカ映画に出ている彼ではなく、
90年代のスペイン時代の作品や、
『夜になるまえに』『海を飛ぶ夢』
『コレラの時代の愛』など、
未見の方はぜひご覧になって下さい。
海を飛ぶ夢 [DVD]/
ハビエル・バルデム,ベレン・ルエダ,ロラ・ドゥエニャス
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コレラの時代の愛 [DVD]/
ハビエル・バルデム,ジョヴァンナ・メッツォジョルノ,ベンジャミン・ブラット
![]()
話を『Hunger/ハンガー』に戻します。
マックイーン監督は、
直截的な政治的プロパガンダ性を排して、
映像でボビー・サンズたちのプロテストを語りました。
ハンガー・ストライキが始まってからは特に、
人間の尊厳について、
セリフのない演技、映像と音楽で表現しています。
ブランケット・プロテスト、
ダーティー・プロテスト、
については、リアリティーがありながら、
映像詩的な描写をしているので、
この作品自体がカンヌ映画祭ではアート映画作品として
評価されたようです。
目を背けたくなるような収容者への虐待の描写は、
『それでも夜は明ける』のような見やすさへの配慮はしておらず、
リアリズムに徹しています。
『それでも夜は明ける』の虐待描写がキツかったという
感想をよく目にしますから、
気分を悪くする人もいるでしょう。
しかし、リアルな描写がなければ、
ブランケット・プロテスト、
ダーティー・プロテストをしても
痛めつけられる虐待は終わらず、
イギリス政府の態度は変わらず、
なぜハンガーストライキという
命を懸けたプロテストに進まざるを得なかったかが、
伝わりません。
このハンガーストライキはイギリス、アイルランドの
一般の人々にも広く関心を呼び、
ハンスト中にボビー・サンズは英国下院議員に、
他のメンバー二人はアイルランド議会議員に選出されました。
ハンストで亡くなったので、登院はできませんでした。
収容者への支援のデモが起こり、
ボビー・サンズの葬儀には10万人もの人々が参列しました。
事件から30年が経って、イギリス政府の機密文書の
機密指定が解除されたり公開されて、
新しい事実が明らかになりましたが、
これを読み込み解説する知識と能力が足りません。
興味のある方はここ←クリックからどうぞ。
「悪の凡庸さ」自分の責任感、判断力に無自覚になり、
思考を停止して命令に従い残虐行為も行う、
そんな人々がこの作品にも登場します。
画像コーナー↓
映画を観てへヴィーな気分になりたくない、
という方もみえるでしょうけど、
私は打ちのめされるような衝撃を受ける
作品に出会いたいという気持ちがあります。
300本に1本くらいで滅多にありませんが、
そんな作品に出会いたいという気持ちも、
映画を観続けるモチベーションです。
マイケル・ファスベンダーは父がドイツ人で、
生まれたのはドイツのハイデルベルクですが、
アイルランドで育ちました。
母が北アイルランド出身です。
祖先にマイケル・コリンズ(アイルランド独立運動のリーダー)
がいるそうです。
『Hunger/ハンガー』のキャストは皆アイルランド人俳優です。
マイケル・コリンズ 特別編 [DVD]/リーアム・ニーソン,
アイダン・クイン,ジュリア・ロバーツ
![]()
長くなってしまいますが、
マイケル・ファスベンダーの新作、
こちらはうって変わって音楽コメディーで、
今年のサンダンス映画祭でも人気だった作品
『FRANK -フランク-』(イギリス・アイルランド合作映画)
をご紹介します。
10月4日日本公開
↓トレーラー
レニー・アブラハムソン監督
キャストはマイケルの他、
ドーナル・グリーンソン(ブレンダン・グリーソン息子)
マギー・ギレンホール(ジェイク姉←みんな知ってる!)
80年代にイギリスで人気があった音楽コメディアン、
フランク・サイドボトム(本名クリス・シーヴィー2010年に54歳で他界)
をモデルにしたコメディーです。
マンチェスターのカルト・コメディアン、フランク・サイドボトムが他界←クリック
あらすじ:
バンドリーダーを務める主人公のフランクは、奇妙な被り物を四六時中つけた謎めいた男。彼のバンドに、ひょんなことから青年ジョンが加入することになる。バンドメンバーから信頼され、ときに明るく、ときに暗い、破天荒なフランクの不思議な魅力に、ジョンも次第に惹かれていく。ある時、バンドのWEB映像が話題となり、彼らはアメリカの超人気フェス「SXSW」に招かれるが、突如様子がおかしくなるフランクにより、バンドは解散の危機に。そして、ジョンはフランクの過去を探り始める。
フランクを演じるファスベンダーは、実際に歌声を披露し、ノイズ系バンドとしてさまざまな楽器も演奏する。被り物をして、世界で最もセクシーな男ベストテンにランクインした顔を封印しつつも、たくましい身体は存分に披露している。(マイナビニュースより)
マイケル・ファスベンダーは、
ピアノ、ギター、アコーディオンが特技なので、
演奏はお手のものだったかもしれませんが、
被り物しての演技は大変だった?
と思いきや、とても快適で、
演じるのも楽しかったと言ってますョ。
これは楽しみな作品です。
『Hunger/ハンガー』は硬派なためか、
あるいはネット配信と限定公開だけということでか、
自分目線で感覚的に語ったブログ記事はまだ見かけません。
でも、時々ブログを読んで悲しい思いをすることがあります。
映画の観方は人それぞれですが、
自論に自信を持って書かれていて、
共感コメントもたくさんついているブロガーさんと、
自分の観方、考えが違っていて、
これだから自分のブログはコメント来ないんだよなァ。
って、思い知るんですよ。
でも、映画が好きだし、
映画の力を信じているので、
記事を読んでくれる人に、
なにか感じてもらえる情報を紹介したり、
知ってもらいたいことを書いて行きたいです。
今日は私の誕生日です。
今日のランキングは
多分ブログを始めて以来の高順位。
記念になるので、書いておこう。
映画・テレビ36位、洋楽10位
デイリー3916位。
順位なんて気になさらない方も多いと思いますが、
なるべく多くの人に読んでもらいたいし、
自分にはモチベーションになっています。
コメントは減る一方ですが、
アクセスは増えているという皮肉。
人付き合い苦手なほうだと思っているくせに、
社交家に見えるらしい私の人間性が反映されてるかな(苦笑)
もう、人生の折り返し地点はとうに過ぎて、
いつ終りが来るかもしれないし、
なるべく穏やかに生きて行きたいけど、
なかなかそうは行きませんね(´□`。)
またまた長い記事を最後までお付き合い下さったなら、
本当にありがとうございます。
読んで下さってありがとうございました
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Hunger
2008年製作
イギリス映画
シアター・イメージフォーラムで鑑賞
↓かなりソフィスティケートされて作られている日本版の予告
↓公式トレーラー
監督:スティーヴ・マックイーン
製作:ローラ・ヘイスティングズ=スミス
ロビン・グッチ
製作総指揮:ジャン・ヤングハズバンド
ピーター・カールトン
リンダ・ジェームズ
エドマンド・クルサード
イアン・カニング
脚本:エンダ・ウォルシュ
スティーブ・マックイーン
撮影:ショーン・ボビット
美術:トム・マカラー
編集:ジョー・ウォーカー
音楽:デビッド・ホームズ
レオ・エイブラハムズ
キャスト:
ボビー・サンズ マイケル・ファスベンダー
レイ・ローハン看守長 スチュアート・グラハム
モーラン神父 リアム・カニンガム
ローハンの母 ヘレナ・ベリーン
ローハンの妻 レイン・ミーゴー
「それでも夜は明ける」で
第86回アカデミー作品賞を受賞した
スティーブ・マックイーン監督が、2008年に発表し、
カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)
を受賞した長編デビュー作。
1981年、北アイルランドのメイズ刑務所に、
イギリスのサッチャー政権に弾圧され、
政治犯として権利を奪われたIRA(アイルランド共和軍)の
ボビー・サンズらが収監されていた。
自らの信念を貫くためサンズと仲間たちは抵抗を繰り返すが、
看守たちの暴力によって制圧され、
何も状況は変わらない。
サンズは最後の抗議手段としてハンガー・ストライキの実行を決意する。
(映画.COMより)
ボビー・サンズは、1954年生まれ。
1981年のハンガー・ストライキで死亡。
アイルランド共和軍(IRA)暫定派の活動家。
ブランケット・プロテスト
(投獄されたときに支給される囚人服を着ることを拒むと裸で房に入れられるので、
毛布を肩にかけて過ごした。)
ダーティー・プロテスト
(監獄に垂れ流した糞尿と食物を壁や床になすりつける抗議活動)
1981年のハンガー・ストライキの参加者は
23名で、10名が亡くなった。
以下のサイトを参考にしてください。
北アイルランドの紛争の歴史←クリック
the Northern Ireland Troubles FAQ
北アイルランド紛争について、
FAQ形式で書かれた日本語サイト←クリック
IRA暫定派←クリック
これは、
2014年1月~4月に観た映画のまとめ←クリック
で、
1~4月に観た作品の中で私のベスト1と
紹介しました。
ワン・ビン監督の『無言歌』以来に、
ずしんと打ちのめされた作品でした。
『ハンナ・アーレント』以来、
「悪の凡庸さ」のテーマを追って
見てきた作品が何本かあり、
シリーズで書きたいのですが、
なかなかまとめて書けないので、
とりあえず私としては、
この作品は早めに書いておきたい
気持ちがありまして。
スティーヴ・マックイーン監督は、
『それでも夜は明ける』で、
アカデミー賞作品賞を受賞し、
作品はシネコンでも上映されたので、
一気に知名度が上がりました。
でも、前作『SHAME -シェイム-』を
御覧になっている方も多いはず。
『Hunger/ハンガー』と同じく、
マイケル・ファスベンダー主演。
SHAME -シェイム- スペシャル・エディション [DVD]/
マイケル・ファスベンダー,キャリー・マリガン,ジェームズ・バッジ・デール
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『Hunger/ハンガー』は主人公ボビー・サンズは刑務所に
囚われている。
『SHAME -シェイム-』の主人公ブランドン・サリヴァンは、
生育環境のトラウマからセックス依存症に囚われた男。
『それでも夜は明ける』の主人公ソロモン・ノーサップは、
騙されて奴隷として囚われの身で12年間をすごす。
この囚われ度が一番キツイのが『Hunger/ハンガー』です。
スティーヴ・マックイーン監督は事件当時(81年)11歳で、
テレビでボビー・サンズが痩せ衰えて行く姿の報道を見て、
忘れられなくなったそうです。
この作品はテロリストを美化しているという批判も受けましたが、
マックイーン監督はイラクのアブグレイブ刑務所で、
フセイン時代だけでなくアメリカ軍政時代に起こった
イラク兵捕虜に対する拷問、虐待、
キューバのグァンタナモ米軍基地収容キャンプにおける、
収容者への虐待など、
現代にも起きている事実への抗議の意味も込めていて、
「とりすました世界で何が起こっているかを知ってほしいだけで、
サンズの行為を良いとも悪いとも言っていない」と反論。
確かに『Hunger/ハンガー』では、
ボビー・サンズらのプロテスト行為は客観的に描かれています。
虐待の実態の描写には容赦はありません。
セリフは極力排除され、
判断は観る者の思考力、理解力に委ねられます。
機動隊の青年が虐待を見ていられずに
隠れて涙する姿が描かれていたり、
サンズの活動家としてのシビアな面も読み取れます。
両親が彼の意志を尊重し、
最後まで冷静に毅然とした態度を取ることも、
政治状況へのプロテストであることが分かります。
ボビー・サンズの薄れゆく意識の中に現れる、
少年時代の彼は、
自然の風景の中で走り続ける。
そして度々彼の枕元に現れます。
少年時代の自分が天使のような役目を果たします。
マックイーン監督は大学で美術やデザインの勉強をした後、
ビデオ・インスタレーションアーティスト、
彫刻家、写真家として活動しました。
ビデオ・インスタレーションとは、
現代美術における表現手法・ジャンルの一つで、
ビデオによる映像を用いて、観客のいる周囲の環境を変容させ、
観客に影響を与えるというもの。
ビデオを使った芸術であるビデオアートと、
場所や空間全体を作品化して体験させる芸術である
インスタレーションを組み合わせたもの。(ウィキより)
1999年にバスター・キートンの映画に基づく
ビデオ・インスタレーションでターナー賞を受賞。
ターナー賞は、
50歳以下のイギリス人もしくは
イギリス在住の美術家に対して毎年贈られる賞。
19世紀イギリスのロマン主義の画家
J.M.W.ターナーの名にちなむ。(ウィキより)
5月のカンヌ映画祭で
マイク・リー監督の「Mr. Turner」で、
ターナーを演じたティモシー・スポールが男優賞を受賞。
日本でも人気のある画家です。
↓昨年スイスのバーゼルの美術館で行われた、
スティーヴ・マックイーンのビデオ・インスタレーションの
レトロスペクティヴ(回顧展)の模様の動画
↓「Mr. Turner」公式トレーラー
マックイーン監督の映画のルックやアングルは、
アーティスティックに造形されていてとても美しい。
私は画家であるジュリアン・シュナーベル監督の
映画がとても好きですが、
『SHAME -シェイム-』を観た時も、
『それでも夜は明ける』を見た時も、
ジュリアン・シュナーベル監督の作品を連想しました。
特にテーマ的にもこの2作を。
『夜になるまえに』(2000年)
夜になるまえに [DVD]/
ハビエル・バルデム,ジョニー・デップ,ショーン・ペン
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『潜水服は蝶の夢を見る』(2007年)
潜水服は蝶の夢を見る [DVD]/
マチュー・アマルリック
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この2作はハビエル・バルデムとマチュー・アマルリックが、
素晴らしい演技をしています。
この芸達者な先輩名優たちに負けないのが、
マイケル・ファスベンダーの体を張った演技力。
『Hunger/ハンガー』はマックイーン作品だということより、
彼を目当てに観る方も多いでしょう。
かくいう私もマイケル・ファスベンダー
好きですけどf^_^;
ロバート・デ・ニーロ、クリスチャン・ベール、
マシュー・マコノヒーにも全く劣らない、
激やせ肉体改造で臨んだ演技は、
壮絶な迫力で、
彼の演技力の高さが分かります。
激やせの肉体改造だけでなく、
佇まいや目の演技で、サンズの人間性や、
活動家としての冷徹な面、
極限状態での人間としての尊厳を表現しました。
(X-MENではこれは出せません)
そうそう、ハビエル・バルデムも、
アメリカ映画に出ている彼ではなく、
90年代のスペイン時代の作品や、
『夜になるまえに』『海を飛ぶ夢』
『コレラの時代の愛』など、
未見の方はぜひご覧になって下さい。
海を飛ぶ夢 [DVD]/
ハビエル・バルデム,ベレン・ルエダ,ロラ・ドゥエニャス
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コレラの時代の愛 [DVD]/
ハビエル・バルデム,ジョヴァンナ・メッツォジョルノ,ベンジャミン・ブラット
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話を『Hunger/ハンガー』に戻します。
マックイーン監督は、
直截的な政治的プロパガンダ性を排して、
映像でボビー・サンズたちのプロテストを語りました。
ハンガー・ストライキが始まってからは特に、
人間の尊厳について、
セリフのない演技、映像と音楽で表現しています。
ブランケット・プロテスト、
ダーティー・プロテスト、
については、リアリティーがありながら、
映像詩的な描写をしているので、
この作品自体がカンヌ映画祭ではアート映画作品として
評価されたようです。
目を背けたくなるような収容者への虐待の描写は、
『それでも夜は明ける』のような見やすさへの配慮はしておらず、
リアリズムに徹しています。
『それでも夜は明ける』の虐待描写がキツかったという
感想をよく目にしますから、
気分を悪くする人もいるでしょう。
しかし、リアルな描写がなければ、
ブランケット・プロテスト、
ダーティー・プロテストをしても
痛めつけられる虐待は終わらず、
イギリス政府の態度は変わらず、
なぜハンガーストライキという
命を懸けたプロテストに進まざるを得なかったかが、
伝わりません。
このハンガーストライキはイギリス、アイルランドの
一般の人々にも広く関心を呼び、
ハンスト中にボビー・サンズは英国下院議員に、
他のメンバー二人はアイルランド議会議員に選出されました。
ハンストで亡くなったので、登院はできませんでした。
収容者への支援のデモが起こり、
ボビー・サンズの葬儀には10万人もの人々が参列しました。
事件から30年が経って、イギリス政府の機密文書の
機密指定が解除されたり公開されて、
新しい事実が明らかになりましたが、
これを読み込み解説する知識と能力が足りません。
興味のある方はここ←クリックからどうぞ。
「悪の凡庸さ」自分の責任感、判断力に無自覚になり、
思考を停止して命令に従い残虐行為も行う、
そんな人々がこの作品にも登場します。
画像コーナー↓
始めはデイヴィ・ギレン(ブライアン・ミリガン演)
の視点で描かれ、マイケル・ファスベンダーはなかなか登場しません
の視点で描かれ、マイケル・ファスベンダーはなかなか登場しません
ブランケット・プロテストと
ダーティー・プロテスト↓
ダーティー・プロテスト↓
虐待は壮絶です。画像は少なめにします。
栄養注射を受けながら「突貫工事」だったという激やせ
マックイーン監督とマイケル
実際のボビー・サンズ↑と亡くなったメンバー↓
映画を観てへヴィーな気分になりたくない、
という方もみえるでしょうけど、
私は打ちのめされるような衝撃を受ける
作品に出会いたいという気持ちがあります。
300本に1本くらいで滅多にありませんが、
そんな作品に出会いたいという気持ちも、
映画を観続けるモチベーションです。
マイケル・ファスベンダーは父がドイツ人で、
生まれたのはドイツのハイデルベルクですが、
アイルランドで育ちました。
母が北アイルランド出身です。
祖先にマイケル・コリンズ(アイルランド独立運動のリーダー)
がいるそうです。
『Hunger/ハンガー』のキャストは皆アイルランド人俳優です。
マイケル・コリンズ 特別編 [DVD]/リーアム・ニーソン,
アイダン・クイン,ジュリア・ロバーツ

長くなってしまいますが、
マイケル・ファスベンダーの新作、
こちらはうって変わって音楽コメディーで、
今年のサンダンス映画祭でも人気だった作品
『FRANK -フランク-』(イギリス・アイルランド合作映画)
をご紹介します。
10月4日日本公開
↓トレーラー
レニー・アブラハムソン監督
キャストはマイケルの他、
ドーナル・グリーンソン(ブレンダン・グリーソン息子)
マギー・ギレンホール(ジェイク姉←みんな知ってる!)
80年代にイギリスで人気があった音楽コメディアン、
フランク・サイドボトム(本名クリス・シーヴィー2010年に54歳で他界)
をモデルにしたコメディーです。
マンチェスターのカルト・コメディアン、フランク・サイドボトムが他界←クリック
フランク・サイドボトムとクリス・シーヴィー
あらすじ:
バンドリーダーを務める主人公のフランクは、奇妙な被り物を四六時中つけた謎めいた男。彼のバンドに、ひょんなことから青年ジョンが加入することになる。バンドメンバーから信頼され、ときに明るく、ときに暗い、破天荒なフランクの不思議な魅力に、ジョンも次第に惹かれていく。ある時、バンドのWEB映像が話題となり、彼らはアメリカの超人気フェス「SXSW」に招かれるが、突如様子がおかしくなるフランクにより、バンドは解散の危機に。そして、ジョンはフランクの過去を探り始める。
フランクを演じるファスベンダーは、実際に歌声を披露し、ノイズ系バンドとしてさまざまな楽器も演奏する。被り物をして、世界で最もセクシーな男ベストテンにランクインした顔を封印しつつも、たくましい身体は存分に披露している。(マイナビニュースより)
マイケル・ファスベンダーは、
ピアノ、ギター、アコーディオンが特技なので、
演奏はお手のものだったかもしれませんが、
被り物しての演技は大変だった?
と思いきや、とても快適で、
演じるのも楽しかったと言ってますョ。
これは楽しみな作品です。
『Hunger/ハンガー』は硬派なためか、
あるいはネット配信と限定公開だけということでか、
自分目線で感覚的に語ったブログ記事はまだ見かけません。
でも、時々ブログを読んで悲しい思いをすることがあります。
映画の観方は人それぞれですが、
自論に自信を持って書かれていて、
共感コメントもたくさんついているブロガーさんと、
自分の観方、考えが違っていて、
これだから自分のブログはコメント来ないんだよなァ。
って、思い知るんですよ。
でも、映画が好きだし、
映画の力を信じているので、
記事を読んでくれる人に、
なにか感じてもらえる情報を紹介したり、
知ってもらいたいことを書いて行きたいです。
今日は私の誕生日です。
今日のランキングは
多分ブログを始めて以来の高順位。
記念になるので、書いておこう。
映画・テレビ36位、洋楽10位
デイリー3916位。
順位なんて気になさらない方も多いと思いますが、
なるべく多くの人に読んでもらいたいし、
自分にはモチベーションになっています。
コメントは減る一方ですが、
アクセスは増えているという皮肉。
人付き合い苦手なほうだと思っているくせに、
社交家に見えるらしい私の人間性が反映されてるかな(苦笑)
もう、人生の折り返し地点はとうに過ぎて、
いつ終りが来るかもしれないし、
なるべく穏やかに生きて行きたいけど、
なかなかそうは行きませんね(´□`。)
またまた長い記事を最後までお付き合い下さったなら、
本当にありがとうございます。
『かしこい狗は、吠えずに笑う』
東京での上映情報
オーディトリウム渋谷で、
7月3日(木)4日(金)21:00~上映します![ビックリマーク]()
どちらかで主演のmimpi*β(ミンピ)のミニライブ予定。
渡部亮平監督日プロ大賞新人監督賞受賞記念![クラッカー]()
まだ、ご覧になってみえない方はこの機会をお見逃しなく![目]()
何回でも観たい方もぜひご覧くださいね![合格]()
オーディトリウム渋谷で、
7月3日(木)4日(金)21:00~上映します
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どちらかで主演のmimpi*β(ミンピ)のミニライブ予定。
渡部亮平監督日プロ大賞新人監督賞受賞記念
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まだ、ご覧になってみえない方はこの機会をお見逃しなく
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何回でも観たい方もぜひご覧くださいね
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25歳衝撃の才能![ビックリマーク]()
渡部亮平監督応援しています![ビックリマーク]()
ぜひ、お近くの映画館にリクエストして下さい![ビックリマーク]()
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渡部亮平監督応援しています
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ぜひ、お近くの映画館にリクエストして下さい
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