『ぼくらの家路』
原題:Jack
2013年製作
ドイツ映画
チネチッタで鑑賞
浜松シネマイーラでも上映
↓『ぼくらの家路』予告動画
↓JACK トレーラー
監督:エドワード・ベルガー
脚本:エドワード・ベルガー
ネル・ミュラー=ストフェン
製作:ヤン・クルーガー
レネ・ローマート
撮影:イェンス・ハーラント
編集:ヤニーナ・ヘアホッファー
美術:クリスチアーナ・ローティ
音楽:クリストフ・M・カイザー
ジュリアン・マース
出演:イヴォ・ピッツカー
ゲオルグ・アームズ
ルイーズ・ヘイヤー
ネル・ミュラー=ストフェン
ヴィンセント・レデツキ
ヤコブ・マッチェンツ
10歳のジャックは、
6歳になる弟のマヌエルの世話で毎日大忙し。
優しいけれど、まだ若いシングルマザーの母は、
恋人との時間や夜遊びを優先していた。
ところが、ある事件から
ジャックは施設に預けられることになる。
友達もできず、施設になじめないジャック。
待ち続げた夏休みがようやく来るが、
母から迎えが3日後になると電話が入る。
がっかりしたジャックは、施設を飛び出す。
夜通し歩き続けて家に着くが、
母は不在でカギもない。
携帯電話は留守番メッセージばかり。
ジャックは母に伝言を残すと、
預け先までマヌエルを迎えに行く。
仕事場、ナイトクラブ、昔の恋人の事務所まで、
母を捜してベルリン中を駆け回る兄第...
(公式サイトより)
『僕たちの家に帰ろう』←クリックで私の記事です。
中国映画の『僕たちの家に帰ろう』を観ましたが、
本作『ぼくらの家路』はドイツ映画。
主人公は兄のジャック。
監督が息子の友人、
施設で暮らしていて週末は母と過ごすという
ジャックと出会った時の、
彼の清々しい行動が印象に残り
この映画のきっかけになったそうです。
ジャックを演じたイヴォ・ピッツカーは、
監督と共同脚本の
ネル・ミュラー=ストフェン
(児童養護施設の職員ベッキとして出演も)
が、オーディションで見出しました。
演技未経験でしたが、
素晴らしい存在感と演技が
ベルリン映画祭で注目され、
ドイツ映画祭の特別賞など、
その後受賞も重ねました。
兄弟が母親を探す3日間だけを
描いた作品ではないです。
その前にあることが起こり、
ジャックは施設に入り、
そこでの生活も描かれます。
夏休みになっても母親が迎えに来ず、
同じく居残りのいじめっ子とトラブルが...
逃げ出して家に帰ると隠し場所に玄関の鍵もなく、
母も弟もいないので、
まず母が預けた友人の家に弟を迎えに行き、
野宿しながら母親を探します。
この兄弟と母親との生活の背景や、
母親の人となりや詳しい説明などはありません。
セリフは少なく、
説明的な映像もありません。
余計なモノを削ぎ落としています。
ジャックの目線で映されることが多い、
ドキュメンタリータッチの
手持ちカメラでの撮影は
ダルデンヌ兄弟のようです。
撮影のイェンス・ハーラントは肩にカメラを乗せて、
屈んで撮影したそうです。
手持ちカメラで撮っていますが、
いかにもな手振れ効果!?は使っておらず、
映像は安定していて見やすいです。
劇伴音楽はあまり入らないのだけど
ちょっと邪魔だなと感じる所はありました。
ジャック役のイヴォ・ピッツカーは
素晴らしい演技でした。
弟のマヌエルも
とっても可愛らしくて自然でした。
2人はとても自然に見えますが、
20~25回も撮りなおしたシーンもあったそうで、
綿密な演出がされています。
法律で子どもたちの撮影は1日5時間までに
限られているため、
撮影に49日かかったそうです。
ジャックが入った
児童養護施設の子どもたちもリアル。
短い描写の中から
彼らひとりひとりが背負っているものを
感じさせます。
ジャックはいじめられるけど、
いじめる子の荒み具合がひどく、
心情の背景を考えると胸が痛みます。
2人の母親ザナは、
息子達を愛してはいるが
自己中な愛情。
男にだらしないダメ女です。
母親としての自覚はあっても、
親としての責任感に欠けています。
のっけからおいおいと
突っ込み入れたくなる行動しまくり。
無邪気で悪い女ではないですが、
親としては問題があり過ぎ。
でも酷い女という描き方ではなく
『誰も知らない』のYOUが演じた
母親のような感じです。
チラシにバーンと
「その日、
僕らは
大人になることを
決めた。」
とのコピーが
あるけど、
これはいらない情報だな~(^o^;)
しかも「ぼくら」じゃないしね。
この作品は母親探しのロードムービー
というより、
少年のひと夏の成長物語。
母親を越えて大人になる少年の
心の機微を
表情や行動で繊細に描いています。
ヴィットリオ・デシーカ、
モーリス・エンゲル、
フランソワ・トリフォー、
ケン・ローチ、
ダルデンヌ兄弟、
ガス・ヴァン・サント、
是枝裕和、
といった監督たちの
少年が大人になる名作映画を想起させる
リアルで胸が詰まり
印象に残るタイプの作品です。
子どもが出て来て「感動ボロ泣き」を
求める向きには合わないかもしれないですけど。
『僕たちの家に帰ろう』
(原題:家在水草豊茂的地方
英題:River Road)
『ぼくらの家路』
(原題:Jack)
は、邦題が似すぎですが、
違うタイプの作品です。
『ふたつの名前を持つ少年』も公開されていて、
大きなくくりでいうと
「少年ロードムービー」となるでしょうから、
同時期の公開はちょっともったいない気もします。
『ぼくらの家路』は、
2014年第64回ベルリン映画祭の
コンペに出品されました。
今年の6月のドイツ映画賞(ドイツのアカデミー賞)
で、作品賞の銀賞を受賞。
共同脚本と出演のネル・ミュラー=ストフェン、
エドワード・ベルガー監督、母ザナ役ルイーズ・ヘイヤー
イヴォ・ピッツカー、ゲオルグ・アームズ
マジパンでできたローラ(トロフィーの名前)の
特別賞!?を持つイヴォくん
↓ドイツ映画賞受賞式の会場設営の動画
2015年ドイツ映画賞受賞式の中継動画が
フルでUPされていたので観て
下書きに貼っておいたのですが、
削除されました。
米アカデミー賞に倣った感じですが、
会場設営から演出まで
とても豪華な雰囲気の授賞式でした。
テレビ局お手盛りのどこかの国の
アカデミー賞とは全然違っています。
今年のドイツ映画賞は金賞も含め
少女ビクトリアが
犯罪の手助けをすることになる
クライム・スリラーの
「Victoria」が殆ど総なめ状態で、
作品賞金賞、監督賞、
主演女優賞、主演男優賞、
撮影賞を受賞。
興味あるけど
こちらは日本公開されるのだろうか。
↓「Victoria」トレーラー
今週は新作映画はあまり観ず、
「すべてみせます。
アレクセイ・ゲルマン特集」のコンプをしました。
『神々のたそがれ』2013年
『フルスタリョフ、車を!』1998年
『わが友イワン・ラプシン』1984年
『戦争のない20日間』1976年
『道中の点検』1971年
の5本を、
時代が新しい順に観ました。
『神々のたそがれ』は、
アメブロブロガーさんには不評だった感じ。
確かに見やすい映画じゃないけど、
この高密度の映像世界は驚愕。
がぜん過去作が観たくなりました。
で、ハマって全部観てしまいました。
昔の作品ほど見やすくはなります。
アレクセイ・ゲルマン監督やはり
巨匠と呼ばれるにふさわしい仕事をして、
映画のダイナミズムを体感する
すごい作品を残しました。
キューブリックと同じくもう誰にも作れない世界。
また、記事を書きたいです。
今週、他に観たのは、
『くまのアーネストおじさんとセレスティーヌ』
ガブリエル・バンサンの
世界に浸ってひとときのしあわせ。
『黒衣の刺客』
これぞ侯孝賢監督の
微細な自然の気配までを捉えた映像世界。
『ふたつの名前を持つ少年』
苛酷な世界で自分の本質を保って生き抜く少年に、
探す自分なんてない。
『赤い玉、』←クリックで記事です!
老いにおののき、もがくおじさんが
愛おしく見えてくる。(笑)
『罪の余白』←クリックで記事です!
『ぼくらの家路』
そしてユーロスペースで開催中の
スウェーデン映画祭で、今日、
イングマール・ベルイマン監督の
『ファニーとアレクサンデル』1982年
と、そのメイキング・ドキュメンタリー
『ベルイマンの世界』1986年。
『ファニーとアレクサンデル』は、
映画の総てが詰まっているような至福の作品で、
今まで観る機会がなかったのは
人生の大損失でしたが観られて良かったです。
そのメイキング・ドキュメンタリー
(説明字幕を監督自身が書いている)を
続けて観られて超ラッキーでした。
この後もスウェーデン映画祭に通います。
後列左から、
ドイツ映画賞で、
マレーネ・ディートリッヒとネコ(^・o・^)