『善魔』
The Good Fairy
日本映画
浜松市木下惠介記念館 三國連太郎追悼上映会で鑑賞
松竹大船作品
1951年(昭和26年)2月19日公開
1時間48分モノクロ、スタンダード
製作:小出 孝
原作:岸田國士
脚色:野田高梧
木下惠介
撮影:楠田浩之
照明:豊島良三
録音:大野久男
美術:浜田辰雄
編集:杉原よ志
音楽:木下忠司
配 役
中沼 茂生:森 雅之
北浦伊都子:淡島千景
三国連太郎:三国運太郎(入社第一回出演)
鳥羽三香子:桂木洋子
父 了遠 :笠 智衆
北浦 剛 :千田是也(俳優座)
小藤鈴江 :小林トシ子
新人三国連太郎
この映画で主役に抜擢された新人三国連太郎、
五尺八寸二分(176.3センチ)
十九貫(71.25 kg)という堂々たる体躯の持主だが、
根は至って純情な青年。
ロケに行っても何くれとなくスタッフの人の手伝いをしているが、
北軽井沢のロケでは雪の中なのでカメラの移動やら何やらが
普段の何倍も人手が要る始末よ之れを見ていた三国青年、
見るに見かねたか「僕がやりましょう」と
重たいカメラを馬橇に乗せ、
一人で軽々と山の上まで運び上げて了ったのには、
スタッフ一同、感嘆しばし。
「ロケの時には、何時でも彼に来て貰いたいネ…」とは…。
好漢何時までもこの気持ちを失わないでいて貰いたいもの。
(公開時のプレスシートより)
解 説
木下惠介は男の純情を描くと
しばしば比類のない情感のたかまりを見せるが、
この作品はその見事な例である。
原作者の岸田國士は、劇作家、舞台演出家であるが、
とくに昭和初期に言葉のデリケートな美しさをこそ
なによりも大切にしようという演劇観をうち出して
新劇界に大きな影響を与えた。
小説家としても活躍している。
その作品では卑俗な現実を超えて一途に純粋さを求め、
そのために傷つくような人物がよく登場するが、
そこがおそらく木下惠介との接点だったのであろう。
知性派的な教養人であった岸田國士と、
庶民的な人情家であった木下惠介とでは
作家としての肌合いはずいぶん違うが、
ともに下卑た人物や表現を徹底的に嫌う
という点では見事に一致している。
善魔とは、悪をなす者が悪魔的なエネルギーと行動力を持つとしたら、
善をなす者もただ善良でやさしいだけではなく、
デモーニッシュなまでの激しさや力強さを
持たなければならないのではないかという意味である。
やさしく善良で純粋な人々を描きつづけた岸田国士と水下恵介が
共通して悩みとして抱えていた問題が
ここに強い主張としてくっきりと現れたのかもしれない。
主役の三国運太郎はこれがデビュー作で、
この主人公の名をそのまま芸名とした。 佐藤忠男
(以上は追悼上映会で配布の資料より)
岸田國士の同名小説を原作に、
人は善を貫くために時に魔の心を必要とすることの是非を問いかける野心作。
正義と真実を追求してしかるべきマスコミが内包する矛盾や、
モラルの失墜が巧みに織り込まれている。
苦悩の果てに"善魔"と化していく純粋な若き編集者を
熱演しているのが三國連太郎。
本作は彼のデビュー作であるとともに、ここでの役名をそのまま芸名とした。
【ストーリー】
新聞社の編集部長・中沼は、
かつて想いを寄せていた政治家の妻・伊都子の失踪事件を追うよう、
部下の三國に命じた。
三國は記事にしないことを約束に、
親友の家に隠れていた伊都子の取材に成功し、
同時に彼女の妹・三香子と恋に落ちるのだが・・・。
(TBSオンデマンドより)
佐藤忠男さんの解説に、
「やさしく善良で純粋な人々を描きつづけた」
と、ありますが、
これは木下監督の一般的なイメージに通ずると思います。
木下惠介監督の映画は「文部省推薦」的映画でしょ?みたいな。
でも、そうじゃないのです。
木下監督は
『僕は、いろいろなテーマを色々なスタイルで
幅広く表現してきたと思うのですが、
今振り返ると
「人間は矛盾だらけで始末に負えないものだが、
なんていじらしくて愛すべきものなのか」
ということを言い続けてきたような気がします。』
(珈琲新聞より)
と述べています。
善良な人間を善良に描いていた訳ではありません。
木下惠介記念館の上映会で、
『喜びも悲しみも幾歳月』と、
『風前の灯』も観ました。
『喜びも悲しみも幾歳月』の大ヒットは、
あれだけの時間とお金をかけたのだから当たり前だ。
と評されたのを受け、
『風前の灯』は20日間で撮って、
『喜びも悲しみも幾歳月』の公開2か月後に公開しています。
『風前の灯』は『喜びも~』の
高峰秀子と佐田啓二の夫婦役同じ2人に、
今度は、ケチで守銭奴で喧嘩ばかりしている夫婦を演じさせています。
これは、大変ブラックなコメディーでした。
両作品ともまた記事を書きますが、
木下監督は人間の善良な面だけを描いたと思われがちなのは、
実は違うんだと、木下作品を観るようになって、
遅ればせながら実感しています。
(昔見たのは忘れてしまっているので
木下作品の観直しを昨年から始めましたが、
スクリーンでの鑑賞をしているので、まだ6本です。)
この、『善魔』でも、森雅之さん演じる中沼は、
まあ、いわゆる優柔不断なプレイボーイなんですよ。
品はありますが、イケスカナイ男です(-"-;A
彼に尽くす、小林トシ子さん演じる鈴江は気の毒です。
三國連太郎さん演じる三國は好青年だけれども、
事件を追う中で、中沼と伊都子の関係も知り、
最愛の女性の死とも直面し、変わっていきます。
好青年が善的「魔性」にとりつかれて行く様が描かれます。
これは、人間のダークサイドの「魔性」よりさらに
難しいテーマです。
かなり哲学的なテーマですが、
木下監督は大人の事情と、若い2人の悲恋を交え、
これをエンターテイメントな作品にしています。
既にマスコミが抱えている問題にも切り込んでいて、
(ジャーナリズムと編集権の矛盾)
社会派的な側面もあります。
でも、難解な作品ではないのです。
そこが木下作品の素晴らしい所です。
三國さんはこの映画デビュー前も
映画になりそうな人生を送ってきた人なので、
ここ←クリックでウィキペディアへ
この映画ではルックスは好青年ですが、
既にこの役を演じるための素養は
実人生でしっかり育まれていたのだと思います。
レッドパージで出演取り止めとなった岡田英次の代役として松山善三の推薦により抜擢されデビュー。この演技により第2回ブルーリボン新人賞を受賞する。デビュー当時、松竹が紹介した三國の経歴は、本名、生年月日、身長、体重を除いてほとんどが嘘だらけだったが、それもまた役者の象徴として平然と聞き流す三國に対して、木下は俳優としての本質的な良さを認め、三國もその資質を活かすことにつとめる。
(ウィキペディアより)
東京東池袋の新文芸坐で「三國連太郎」追悼上映
「渾身の役者魂 名優・三國連太郎を偲ぶ」←クリックでHPへ
が行われています。
7月30日に『善魔』の上映がありました。
ご覧になった方もいらっしゃると思います。
私は浜松の木下惠介記念館での追悼上映会で観ました。
三國さんの原点と、木下惠介作品の奥深さを確認できる『善魔』
機会がございましたらぜひご覧ください。
『はじまりのみち』で木下惠介作品観たい!
衝動に駆られた方にもおススメします。
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『野菊の如き君なりき』『善魔』『少年期』
『海の花火』『カルメン純情す』『日本の悲劇』
『女の園』『遠い雲』『夕やけ雲』を収録。
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