イスラーム映画祭2で観た映画の感想
私たちはどこに行くの?
ナディーン・ラバキ監督
2011年製作
フランス=レバノン=エジプト=イタリア
舞台はレバノン
ミスター&ミセス・アイヤル
アパルナ・セン監督
2002年製作
インド
改宗
監督 : パーヌ・アーリー、コン・リッディー
2008年製作
タイ
以下4本は②に書きます。
敷物と掛布
アフマド・アブダッラー監督
2013年製作
エジプト
泥の鳥
タレク・マスゥド監督
2002年製作
バングラデシュ=フランス
舞台はバングラディシュ
蝶と花
ユッタナー・ムクダーサニット監督
1985年製作
タイ
マリアの息子
ハミド・ジェベリ監督
1999年製作
イラン
1月14日(日)〜20日(金)に
ユーロスペースで開催された「イスラーム映画祭2」←クリックで公式サイト
では
9本の映画が上映されました。
2015年12月に開催された「イスラーム映画祭」←クリックで公式サイト
でも9本上映されて私は全部観ました。
今回の2もコンプしたかったけど事情により7本の鑑賞になりました。
トークセッションも1回だけの参加で残念でしたが、
あまり観る機会がなさそうな作品を鑑賞できました。
手作りの映画祭でこのような貴重なラインナップを観ることができて
イスラーム映画祭実行委員会の皆様に感謝いたします。
「イスラーム映画祭2」は
名古屋 シネマテーク 1月21日(土)〜 1月27日(金)
神戸 元町映画館 3月25日(土)〜 3月31日(金)
でも開催されます。
本来は観てすぐにツイッターに感想を投稿した方が良いのだけれど、
3ヶ月程ツイッターとなうへの感想投稿をサボっているので
ブログに作品紹介と感想をまとめておきます。
「イスラーム映画祭2」で私の一番印象に残った作品は
『私たちはどこに行くの?』
ナディーン・ラバキ監督
2011年製作
フランス=レバノン=エジプト=イタリア合作
戦争で荒廃した、ムスリムとクリスチャンが
半数ずつ暮らすレバノンの小村。
女たちは共に仲良くしていたが、
男たちは事あるごとに争いを始め手に負えない。
平穏な生活を守ろうと、女たちはあの手この手と策を練る…。
『キャラメル』の監督が贈る、
男たちの争いを止めようと女性たちが共闘する
歌や音楽満載の悲喜劇です。
中東=イスラーム一色というイメージと異なる
レバノンならではの作品で、他のアラブ諸国でも大ヒット。
(公式サイトより)
女たちは宗教の違いを越えて
日頃から仲良くしているが
男たちには諍いが絶えない。
ある悲劇が起こり大きな争いが起きそうになるのを
女たちが知恵を絞って
旅の踊り子一座のセクシーなお姉さん達も雇い、
男たちの戦意を失わせる計画を実行。
『キャラメル』に続き
ナディーン・ラバキ監督が主演もしています。
今回はインド映画風の歌と踊りが入るシーンがあります。
シリアスな状況設定で悲劇も起こります。
作品は悲しみを湛えながらも、
ユーモアと女たちのパワーがドラマを輝かせます。
職業俳優でない人たちにもとても味があり、
男性にも茶目っ気があります。
力強くて優しい女性たちの共同する力が
融和をもたらす。
分断が広がっているこの世界で
憎しみを越えて相手を受け入れる寛容さを。
この映画が多くの人に見られたら良いのに。
とても心に響く素敵な作品で
早くも今年のマイベスト上位の予感。
「Where Do We Go Now?」インタビュー←クリック
撮影中のラバキ監督
ナディーン・ラバキ監督・主演・脚本
『キャラメル』(2007年製作、2009年日本公開)
オススメです。
ナディーン・ラバキ監督は主人公ベイルートの
ヘアサロンオーナー・ラヤールを演じます。
サロンの店員、お客、ご近所さん
20代から60代の5人の女性たちは
それぞれに秘密や問題を抱えています。
彼女たちのそれぞれの生き様を強く暖かく繊細に
ユーモアを込めて描いた作品。
LBGT映画でもあります。
砂糖、レモン汁を煮詰めた脱毛に使う「キャラメル」が題名。
キャラメル [DVD] 4,104円 Amazon |
『ミスター&ミセス・アイヤル』シーン動画
『ミスター&ミセス・アイヤル』
アパルナ・セン監督
2002年製作
インド
タミルのヒンドゥー女性ミーヌは、
夫の元に帰るバスの旅でベンガル出身のラジャと出逢う。
ところが道中、ヒンドゥー対イスラームの暴動に遭い、
暴徒を前に彼女は、ムスリムと知ったラジャのことを夫だと嘘をつく…。
宗教も出自も異なる男女が束の間の夫婦を装う物語です。
危険な道行きの中で、いつしか惹かれあう2人の姿に
宗教融和への祈りが込められています。
深刻な題材を描きつつも胸をしめつける、
切ないラブストーリー。
(公式サイトより)
こちらもインドの女優、監督、脚本家の
アパルナ・セン監督作品。
ベンガル映画で活躍する大ベテランです。
主人公のヒンドゥー教徒の
物理学修士生で1歳の息子を連れたミナクシは
里帰りから戻る途中のバスで
野生動物写真家でムスリムのラジャと合席。
イスラームとヒンドゥーの対立による暴動が起こりバスは立ち往生。
ムスリムを探しに乗り込んできたヒンドゥーの暴徒に
ミナクシはラジャのことを自分の夫だと嘘をつく。
暴動下の状況がスリリングかつリアルに描かれます。
その中での慎ましさのあるメロドラマ。
リケジョのミナクシが持っていたムスリムへの偏見が
ラジャとの道行きの中で解かれていきます。
多宗教、多言語のインド。
映画の中では英語、ヒンディー語、
タミル語、ベンガル語が話され、
ムスリム、ヒンドゥー教徒、ユダヤ教徒が登場します。
宗教の違いで人を見る目にフィルターがかかっていた
ミナクシはラジャの人柄に惹かれて偏見も捨てていきます。
この作品でも主人公が現実世界で
しっかりと生きている女性として描かれていて
女性ならではの強さとしなやかさを感じました。
『◯◯の橋』とは違うのょ。
若い頃のアパルナ・セン監督(1945年生まれ)
批評家・映画製作者であった父親の友人
サタジット・レイ監督の映画
「Teen Kanya」でデビュー。
現在も女優、監督、脚本家として活躍
『改宗」
監督 : パーヌ・アーリー、コン・リッディー
2008年製作
タイ
バンコクで働く仏教徒のジューンは、
タイ南部出身のムスリム、エイクとの結婚を機に
イスラームに改宗する。
生活に根づくイスラームの教えと慣習を学びながら、
ジューンはやがてエイクと共に南部の島へ移住するが…。
結婚と改宗という二つの決断を果たした女性の、
新たな人生を描くロード・ドキュメンタリーです。
彼女の迷いや歓びから結婚とは何かについても考えさせられ、
やがてぎこちなくも素朴な夫婦の愛の旅路が見えてきます。
(公式サイト)
以下多少ネタバレ気味です。
バンコクで雑誌記者、編集者として働き、
古着屋も経営しているジューンは、
現代的なやりての女性です。
彼女に結婚して欲しいとプロポーズし、
4年間待っていたミュージシャンのエイクと
ついに結婚する決意をします。
仏教徒であるジューンがイスラームに改宗しないと結婚できません。
故郷に行って自分の両親にも相談します。
そしてエイクの故郷へ行って改宗。
仏教徒としての人生を捨て
イスラーム教徒として生きることになりました。
そしてバンコクの都会生活をやめて、
エイクの故郷の南部の島へ移住し2人で店を始めます。
しかし商売は結局上手く行かず1年後にバンコクへ。
妊娠した大きなお腹でジューンは出版社に復帰。
エイクもミュージシャンの仕事に戻ります。
エイクは結婚した時、自分が大切にする順序は
1に神、2に預言者、3に家庭だとジューンに語りました。
家庭生活を大切にすると言ったのに、
不便な島での生活を送る中、
演奏の仕事を頼まれることを口実に
店や家のことはジューンに任せきりになり
ジューンに不満が溜まります。
こんな様子は宗教や国も関係なく
ありそうな夫婦の問題。
改宗という一大決心をして結婚、
イスラームの教えを守るジューンには
育った環境が違いすぎる夫婦の
カルチャーギャップに苦しむ姿として
普遍性を感じました。
しかし、改宗はタイでも特別なことだそうで
彼女の苦労は無宗教の私などには計り知れません。
バンコクで子どもが生まれて夫婦はそれでも
また南の島へ移住する夢は捨てていない
というところで終わりましたが、
その後あの家族はどうしたのだろう。
この作品は山形国際ドキュメンタリー映画祭の
アジアのドキュメンタリー作家を応援し、
発表の場を生み出すことを目的としたコンペ部門のアジア千波万波部門
(河瀬直美、ヤン・ヨンヒ、アピチャッポン・ウィーラセタクン
が世界に出るきっかけとなった)
で2009年に上映されています。
佐藤真監督(傑作ドキュメンタリー『阿賀に生きる』
『阿賀の記憶』など)
に捧げられていました。
パーヌ・アーリー監督インタビュー←クリック
阿賀に生きる [DVD] 3,990円 Amazon |
この映画『改宗』は
原題 : Muallaf
英題 : The Convert
です。
1回目のイスラーム映画祭で上映されて観た、
マレーシアのヤスミン・アフマド監督
『ムアラフ 改心』(2007年製作)と
同じ原題、英題です。
こちらは辛い経験をしたムスリムの姉妹と
カトリック信者の青年との交流を描いた作品です。
長くなってしまったので2回に分けることにしました。
あと4本は②に書きます。
「ウーマンズマーチ」に参加のイアン・マッケラン